『バレンタイン』と言うと淡い記憶がよみがえる。胸がときめいて寝ても覚めても抱いていた彼への想いを伝えられなかった、高校一年のバレンタイン。くじ引きの席替えなのに、なぜかいつも隣とか後ろとか近くになった男の子。かっこよくて当時は「つっぱり男子」が流行ったこともあり、やや髪型をリーゼントっぽく決めていた彼は、外見と違ってとてもやさしくて女子の私よりもよく気が利く人だった。美容院に行った翌日には「髪切ってきたでしょ」と声をかけてくれたり、何か相談ごとなどをなぜか私にしてくる人だった。

私はと言うと、太め体形でいつもボーっと座っていて何のとりえもない単なるクラスメイトのイメージだったと思う。リーダーシップもあって男子に頼りにされていて、先生とも対等に口を聞いていた彼が、いつしか私のハートの中心に居座ってしまっていたのだ。仲良しの友人たちにも「バレンタインはチョコあげるんでしょ!?」と言われ始め、うろたえながらも内心(もちろんあげたい)と思っていた私。でも、彼は眩しすぎてあまりにもみんなの中心にいたので、私なんかがチョコをあげていいのかどうか大いに迷った。結果だって見えていた。玉砕したあとのクラス中の同情をかうのはわかっていた。それでもチョコをあげたいという気持ちをどうすることも出来ず、とにかくトリュフチョコレートを本を見ながら一生懸命に作り、家族には(お友達みんなで食べるんだ~)と言いつつ学校に持っていった。

当日、例によってすぐ近くの席にいた彼に「これあげるからさ~」と一粒だけトリュフチョコを机に乗せ、カモフラージュのために周辺にいた男子たちにも同様に机に乗せてあげた。配っちゃった、という方が正しいかも。当然彼にとっては単なる「お菓子配り」にしか見えなかっただろうな。それでも私にとっては懸命に考えた秘策であり、不完全燃焼だったけど実行できた安堵感はあったかもしれない。

クラス全員が一体となって仲が良かったから告白なんてとても出来ない雰囲気だったし、煮え切らなかった私は結局勇気がなかったんだな・・・と今思うと情けないけど、あれはあれで良かったのかも知れないとも思う。だって翌年クラス替えになってまもなく、彼は学年一の美少女を彼女にしていたんだから。私はピエロみたい役回りで良かったんだと痛感。不完全燃焼にはそれなりの理由だってあるんだもの。