この歳では今さらバレンタインでもないのですが、古ーい話を思い出しました。それは、初めてもらったバレンタインチョコのこと。
といっても、私のことではなく、新婚早々の頃の主人の事です。もともと理系人間で堅物が背広を着ているような人でしたが、結婚するまで、いくら昭和50年代とはいえ、バレンタインデーなる物を知らずに来たのです。育った環境が違うとはいえ、まあ、ある種の専門馬鹿かと思ったりしましたが、そんな主人にバレンタインチョコを、当時子供がお腹にいたので手作りではなく、某有名メーカーのチョコを買って、当日そっと渡しました。
主人はきょとんとした顔で、「今日は何か記念日でもあったのかい。そういや、やけに会社の女の子たちがそわそわしていたけど」…そうなんです。そういう人。まわりのことは殆ど気にならないのですね。私が、今日はバレンタインデーですよ、と説明すると、主人の話がまた変わっています。主人が知っているバレンタインデーとは、何と1920年代のアメリカのギャングのアル・カポネの時代に起きた出来事。何でも、セントバレンタインデーの虐殺と言って、ギャング同志の血なまぐさい事件があったそうです。そして、何や、●子は知らんのかと逆に聞く調子。
話が少し横道に逸れましたが、とにかくバレンタインデーの説明をしてチョコを渡すと、その場で開けてみて、これ舶来品やな。と言います。一体、私と三歳しか違わないというのにこのギャップ。そして箱を見て、これ何と読むんや。と聞きます。女性なら、おそらくだれでも知っているブランドなのですが、そもそも辛党の主人は、チョコと言えばマーブルチョコくらいしか知らないし、洋菓子にしても和菓子にしてもおよそ無関係の世界で生きてきたみたい。
結婚前に自分自身で、甘いものは苦手と言ってはいましたが、まさかここまでとは。そんな主人が、とにかく一つ食べてもいいかと言いながら、口に頬張りました。私は、がつがつと噛まずに舌で転がすのよ、と言うと、そうか、と言いながら神妙な顔でしゃぶっています。そして、数分間の空白。言葉がありました。やっぱり、甘いものでも舶来の品は旨いな。それ以来数十年、そのブランドだけは自分でも時々は買ってきて、一緒にお茶菓子にしたりしています。そんな風にして、泣いたり笑ったりの歳月。しかし辛党のこだわりか、ウイスキーボンボンは邪道だと言って決して食べません。